子供時代の経験と、将来の夢
幼い頃から家に対して興味を持っていたように思う。生まれ育った北海道は、家の造りも独特。特にのどかな地域だったので、土地が豊富でほとんどが平屋建て。自分の育った家も平屋だった。二階建てに憧れて、この家に二階を造るなら、どこに階段が来るのかな、増えた部屋はどんな部屋にしようか、と勝手に想像して楽しんでいた。
小学生の頃、父親の転勤で埼玉へ。4月だったが、雪が積もっていないことにまず驚いた。別世界に来たような不思議な感覚のまま飛行機を降り、電車での移動中も外の景色に釘付けだった。窓の横にある板は何だろう。どうしてお寺みたいな家ばかりなのだろう。北海道では、冬の寒さで凍結するので雨戸はない。積雪のため、屋根は急勾配のトタン屋根。だから初めて見た雨戸が理解できず、瓦葺の家はお寺のように感じられた。手が届きそうな間隔で家が建っていることにも驚いた。
そんな経験をしながら、いつの間にか自分の中でも住宅に係る仕事をしたいと、将来の夢がはっきりしてきた。中学校の卒業文集には「インテリアコーディネーターになりたい」と書いていた。迷うことなく進路も決め、実りある学生生活を送り、就職活動の時期。
大学は都内まで通っていたが、就職先はどうするか。長く働くつもりだったので、できれば県内で働きたい。電車に乗ればすぐに都内へは行けるし、情報も豊富でおしゃれな店や会社も、断然都内の方が多い。でも何もかも都内が良いと言えるのだろうか。埼玉と東京。隣り合っているが、地域性は違う。自分が暮らす場所と働く場所が近い方が良いと感じて、県内に絞って就職活動をし、地域密着を謳うハウスメーカーに就職が決まった。
お客様ともっと深く係わりたい──ハウスメーカーでの葛藤
ハウスメーカーでは新築物件のコーディネート業務を担当。少しずつ仕事を覚えると、毎日が楽しくて仕方がなかった。お引き渡しでは、お客様は新しい家を眺め、これから始まる新しい生活を想い嬉しそうだ。笑顔で「ありがとう」とお礼を言われることは、私にとっても本当に嬉しく、何よりの至福の瞬間。
でも、仕事をこなしていくうちに、単に嬉しさだけでなく、時には疑問も湧いてくる。きれいなリビング、ピカピカのバスルーム、最新のキッチン。新しい家を眼の前にして嬉しいと感じることは当たり前かもしれない。
「私がいなくても同じようにお客様は喜んでいたのではないか」
「私でなければできなかったことはあったのか」
本当はリビングにあの家具をご提案したかった、標準仕様ではないけれどご要望にぴったりの設備があるのに、工期が限られていなければもっとトータルにご提案できるのに。もっと私にできることがあったのではないかと、常々思うようになった。
「十年後も嬉しそうに住んでいらっしゃるのだろうか」
「不具合が出た時や、ライフスタイルが変わった時は、誰にどう相談されるのだろう」
短時間の中でも、ライフスタイルやお好みをお聞きして、その情報を基にご提案してきたが、社内では区切りごとに次の部署へ引き継いでいかなければならない。それが会社のやり方で、そうしてお客様の安心を守っているのは事実であり、社内のルールに従うことは当然のこと。
日々の業務の中でも学ぶことはたくさんあり、接客を通してお客様から教わることもたくさんあったが、消化不良の感も決して否めなかった。もっと深くお客様とお付き合いしていきたい。その思いが強くなり、ハウスメーカーの枠を超えて仕事をしたいと、少しずつ働き方を意識するようになった。
生活のすべてが仕事のヒント
ハウスメーカー勤務中は、制度が整っていたお陰で、二人の子どもを産み、二度の育児休暇後、職場に復帰した。育児休暇中は、時間の流れの違いに戸惑い、生活ペースが掴めなかった。元々のんびり過ごすことが苦手で、育児の合間に資格取得の勉強などをしていたが、それでも時間がもったいなく感じ、早く仕事に戻りたいと思う毎日だった。復帰後は、社内のメンバーの協力はもちろん、家族の理解、保育園、ベビーシッター、さまざまな方々のお陰で仕事を続けることができた。
そして平成19年、14年間お世話になった会社を巣立ち、念願のフリーランスとなり、この間に得た経験や人脈を財産として新しい生活がスタートした。最近は、自分自身の生活をより意識するようになった。自分自身が楽しく心地好く暮らしていなければ、的確なアドバイスは難しい。お客様と同じ生活者という目線を大事にしたい。日々の生活はどこかで仕事とも繋がり、机上の勉強では理解しきれない重みのある言葉となる。
先日、新規購入の家具を納品の際、お客様と一緒にキャビネットに飾る写真を選びながら、お孫さんの話を伺った。お孫さんからもらった絵や工作の収納に悩んでいらっしゃったので、私が子供の作品を収納する際の方法を伝えると、とても喜んで下さった。そして、収納計画のご提案と、造作工事の追加をいただいた。些細な会話からも、提案を広げていけるのもフリーランスの楽しみであり、強みだと実感した。
生活は毎日のこと。だからこそ小さな悩みも不具合も、積み重なると大きな不満となってしまう。でも、それをうまく伝えることは容易ではないから、言葉に出しきれていないご要望までも汲みとり、具体化していくお手伝いをしたい。毎日の暮らしが楽しくなるような空間を、プロとして+αのアドバイスを交えながら一緒に造りあげていきたい。まだまだ勉強したいこともたくさんある。そして何より、もっとインテリアコーディネーターの存在を広め、誰もが気軽に相談できる環境も整えたい。
やりたいことがたくさんあって、これからも時間に追われる日々は続くと思う。でも毎日が楽しく、生活そのものが勉強でもあり、仕事でもある。田舎生まれの性分か、時々山が恋しくなり、休みには家族でキャンプに出掛けてリフレッシュする。こんな充実した日々を過ごしていることに、感謝の気持ちを忘れずに、毎日楽しみながら暮らしていきたい。
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