家づくりを通して伝えたい──人や環境にやさしい住まい
最近の家のつくりかたは、あまりに主役の人間をおざなりにしてはいませんか。
人を取り囲む環境や人以外の生き物にも優しくありません。昔の日本人は環境とも、生き物たちとも工夫して上手に共生していました。そのうえ自分たちの住みやすいように住まい、自由でした。
経済至上主義がもたらした環境や生物たちへの弊害。取り戻したくてももう取り戻せないものも沢山出てきているなか、私たちはどうやってこれから生きていくべきなのかもっと真剣に考えなくてはならないのではないでしょうか。
家は生きています。大切にしようと思えるものを選び、使い続けて後世へ伝える。壊れたら修して、使われているものの美しさ、愛おしさに気づいていただけるよう、私は家づくりを通してこの考えを伝えてゆきたいと思います。
もっと自由にできるはず──家づくりに参加してみませんか
家の計画をしていていつも気になっていました。家づくりに住まい手が参加していないこと。
「こうしたい。やってみたい。」
こういった意見がいとも簡単に施工側の意見によって覆されてしまう。
「前例がない。」「やったことがない。」「そんなのおかしいから。」「保証が。」「メンテナンスが。」確かに色々な意見はわかりますし、ごもっともです。そして、大切なことです。現実的でないご要望もありますから。
でも、ほんとうにそれはできないことなのでしょうか? 何故できないのでしょうか、ただ面倒なだけではないの?
ほんとうはもっと自由にできるはずです。人と地球に優しい家。決まりきったかたちではなく、可能な限り自由な空間へ。完成で終わりではなく、住まい手とともに成長する家。経年変化を楽しめ、味わい深くなってゆく家。
家は一生のうち何回も建てられるものではなく、ほんとうに大きな買い物。簡単ではありません。もっと希望を叶えて差し上げたい。ご意見よりもっとすごい提案をしたい。家づくりの楽しさを伝えたい。
だから家づくりにもっと参加してほしい。一緒にやりましょう。きっと、ご自身が加わったことで、家に対する愛着も違うはずです。そして、大切にしていただけるはず。
人が幸せになる器──箱としての家の大切さ
家に関わるもの全て、材料のひとつひとつがとても大切です。しかし、どんなに良い材料を使ってもそれを生かす空間がなければ成立しません。
最も大切なことは環境・空間(箱)だと考えます。
住まい手は家族それぞれ、ひとりひとり、まるで考え方や好み、暮らし方が違います。細かいことを言えば同じものを使用していても、使い方、置き方だってちがいます。箱を押し付けられてそれに合わせるという画一的な考えや提案では納得が行きません。
住まい手がそこでどう過ごしたいのか。どんなことをやりたいのか。本当は一番何を望んでいるのか。お客様ご本人がわかっていらっしゃらない場合も多いものです。今の住まいではできないけれど、新しい家ではできることがたくさんあるかもしれないのですから。
そうなると、こちらのプランを出すにしても大変時間がかかります。好きな本や雑誌などから趣味・嗜好を伺い、ライフスタイルの提案をすることもあります。
ただ、空間(箱)提案には無限の可能性はあっても、有限である大きさや法規的な条件、お客様のご予算などなど様々な乗り越えなければならない壁が山ほどあります。条件がある中で無限の可能性のある空間(箱)を探す。一筋縄ではいかない作業ですが、だからこそ私たちのような仕事があるのです。
ご自身にとって理想の箱をつくるには、何でも全てできるだけ正直に思いの丈をぶつけてください。予想を上回る箱が生まれるかもしれません。
ほんとうにほしい家具は──造ってしまうのが一番
自分がほんとうに欲しいと思う家具はなかなか手に入りにくいもの。
「それならば、造ってしまおう。」
というのが私の考えです。壁の厚みや構造材との兼ね合いを巧みに利用し、細かい造り付けの家具を考えるのがとても楽しい。
もちろん、テーブルや椅子など単品のものも部屋に合わせて作ります。照明器具やファブリック類だって合うものが売ってなければ作ります。
売っているものを選ぶのも楽しいけれど、作ることにすると本当に枠がなくなって自由です。そして、食べ物と同じで塗料など材料がわかっているので安全です。食べても大丈夫な米ぬかでできたワックスを使ったり、自分で選べる安心があります。
鑢をかけて磨いたり、ワックス掛けも自分でやればコストもダウンできますし、これから自分が使うものと思えば汗をかくのも楽しいものです。
家の内と外──先人の知恵を生かして
家の内と外、別々に考えるのではなく、外であり内である。中であり外である。日本の建物の考え方は古来からずっとあいまいな空間を残す手法でつくられてきました。外国の建物の考え方が入ってきてから、外部と内部ははっきりとわけられるようになりましたが、いまは日本の気候に合った考え方が見直されています。
太陽の光、暖かさ、風の入り方、抜け方。四季おりおりの日本の風土には自然との折り合いのつけかたがポイントになっていると考えます。夏の暑さを考え庇を深くし、冬は太陽の位置が低いのでこの庇は邪魔にはなりません。
自然を考えればおのずとわかる先人の知恵。自然を見ればそれが答えなのです。自然に逆らう計画をすれば不快な家になってしまう。もっと自然にまっすぐ向き合う提案をしてゆきたいものです。
私が木に詳しくなったわけ──心の師匠への感謝をこめて
家の設計とコーディネートをやり始めたばかりの頃。あまり材料のことや、まだまだ何もわからずに手探りで仕事をしていた頃です。
お客様のご希望で直接木材屋さんに材料を見に行くことになり、そのときお世話になった社長さん。お酒を飲んで人と話をするのが好きで
「もっと木を使ってよ。日本の木をね。」
「土砂崩れはね、木の植え方に原因があるんだよ。」
などと木に関することを教えてくださいました。環境に関する問題に興味を与えてくれた人でもありました。また、施工現場の仕上がりのクレームで、こちらにも非があるにもかかわらず、全て解決してくださいました。
今は遠く離れてしまいましたが、離れていても環境のことを考えて仕事で社会に還せばいいのでは……少しずつでもそうやって積み重ねて私が活動することで恩返しになるのでは……と勝手に考えています。
いまや、木のことを話すとうるさいぐらいになったのも心の師のおかげ。いつか木の話を肴に一緒に飲める日が来ますように。
|