インテリアコーディネーターという仕事を始めて、25年以上。今だに、この仕事の奥底は見えてこない。
一つとして同じ依頼はないし、一つとして同じ回答もない。
現場ごとに、依頼者の要望に耳をすまし、周辺を見渡し、最終の出来上がりをイメージする。作業の流れは一緒でも、通る道筋は千差万別。ただ一つ言えるのは、次の現場には、25年培ったすべての経験を注ぎこむことができる、ということだけだ。
業務の8割を占める企業からの依頼
企業からの依頼の場合、インテリアコーディネーターの役回りはさまざまに変化する。
インテリアデザイナー、インテリアスタイリスト、設計士、調整役、ディレクター、コンサルタント、便利屋、・・・。そのすべてを包含することも多い。
最初に考えるのは、今回は何のためにこの場に呼ばれたのか、ということ。それさえ明確になれば、業務の進め方も自ずから明らかになる。現場における自身の立ち位置を確認することによって、複雑な人間模様もすっきり見えてくる。
短くて数週間、長ければ数年。プロジェクトの遂行中は、現場の事情を正確に把握し、チームワークを大切にすることを心がける。
最後に目指すのは、「ありがとう」の言葉ではなく、「次の現場もよろしく」の一声。リピートオーダーが来たときに、前回の現場が成功したのだ、と初めて実感できる。
後の2割はとことん付き合う個人住宅
個人住宅の基本は、住み手にとって「居心地のいい」住まいの形を探り当て、具体的に仕上げること。徹底したヒアリングと、家族の情報収集が鍵となる。
溢れんばかりの情報の中で何が本当に必要なのかわからなくなってしまう方が多い昨今、インテリアコーディネーターの役割は、「こんな新しい商品が出ましたよ」と情報を提供する足し算の仕事から、「その商品はあなたの家に本当に必要ですか」と問いかける引き算の仕事に移行しつつある。
一番の課題は「気持ちよくあきらめてもらうこと」。
数ある要望にきちんと優先順位を付けること、後からやるのは大変なことと後からでも簡単に変更できることを区分すること、この2点をクリアすれば、本当に必要なものを見失うこともない。
「失敗したくない」という悲壮なまでの覚悟で家づくりに取り掛かるのではなく、間取りや設備・内装などはライフサイクルに合わせて作り直す、くらいの和やかな気持ちで取り組めるように、家族と共に変化し、成長することのできる住まいを提案したいと思う。最初から100%の住まいは、ありえないのだから。
インテリアコーディネーターのネットワーク会社設立で大型受注に対応
そもそもインテリアコーディネーターは孤独な商売である。かなり大きな現場でも、携わるインテリアコーディネーターは一人だし、建設会社や工務店、設計事務所でもインテリアコーディネーターが1人しかいないことも多い。よほど大きなハウジングメーカーにでも就職しない限り、職場に先輩がいないことさえある。そこで、インテリアコーディネーター同士が情報を共有し、助け合いながら業務を進めていくシステムを目指して、2005年、インテリアコーディネーターのネットワーク会社「有限会社アイシープラス」を立ち上げた。
フリーのインテリアコーディネーターが1人では受けきれない大きな現場や、不得意な業務をネットワークで受注するシステムだ。具体的には、大型団地のインテリアコーディネート業務一括請負や、大規模タワーマンションの設計変更業務請負などに、取り組んでいる。
1つのプロジェクトに複数名のインテリアコーディネーターがチームを組んで参加し、チームリーダーが企業とインテリアコーディネーターのパイプ役を務める。参加したインテリアコーディネーターたちは、仕事をしながら、他のコーディネーターの仕事の進め方を垣間見ることができる上、絶えず情報交換することによって、自身のスキルアップも期待できる。企業側にすれば、個人(フリーコーディネーター)に仕事を出すリスクを回避することができると共に、窓口を一本化することによる業務の軽減化が図れる。
インテリアコーディネーターは建築のプロであると共に、生活者の視点をも持ち、また、生活者に一番近い存在でもある。そんなインテリアコーディネーター100名近くのネットワークを利用して、今後は、商品のモニタリング、販売促進などにも意見を反映してもらいたいと考えている。
|